名古屋高等裁判所金沢支部 事件番号不詳〔2〕 判決
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人大橋茹、齋藤寿の控訴趣意は別紙記載のとをりである。
控訴趣意第一点について。
原判決挙示の川島ふみ名義の販売始末書によれば本件買受の目的物たる紺織木綿は紺織一号であることが明らかであり、昭和二十三年八月十八日物価庁告示第七百二号によれば紺織一号は巾鯨尺九寸五分であることが明らかである。而して昭和二十二年九月十日商工省告示第五十八号によれば巾五吋以上の織物は衣料品配給規則第一条第一項に定むる纖維製品に該当することが明らかであるから、本件の紺織木綿は右指定纖維製品に該当する。従て之を配給割当公文書と引換えずして買受くるは臨時物資需給調整法違反罪を構成する。原判決は右の趣旨により被告人を処断したもので原判決の適条中に所論の商工省告示を掲げなかつた事は粗漏のそしりを免れないが未だ原判決を破棄するの理由となすには足りない論旨は理由がない。
同第二点について。
原判決援用の川島ふみ名義の販売始末書によれば本件紺織木綿の販売代金が二十九万二千円であることは明かであるのみならず、弁護人の援用にかかる被告人の原審に於ける供述の趣旨は被告人は川島より紺織木綿三百反を売つてくれと賴まれたので、一旦三十万円で自ら買受け、他面売つてやる手数料として一万円を川島より貰い受け、其後川島が同人自身口銭が少しもないと訴えたので被告人が更に二千円を川島に交付したと云うのであり、被告人より川島に交付した金員の合計は二十九万二千円となり前記川島の始末書の記載と符合する。その他所論は原審の採用せざる証拠を以て原判決の認定を非難するもので論旨は理由がない。
同第三点について。
記録に徴しても原審の科刑が重きにすぎるとは認められない論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法第三百九十六条により主文の通り判決する。(昭和二五年一月二三日名古屋高等裁判所金沢支部判決)
弁護人大橋茹、齋藤寿控訴趣意
第一点 原判決には理由不備の違法がある。
即ち原判決はその理由中において
「被告人は法定の除外事由がないのに配給割当に関する公文書と引換えないで……紺織木綿約四百反を代金合計四十二万四千円で買受けたものである」と判示して臨時物資需給調整法第一条、第四条、衣料品配給規則第五条、罰金等臨時措置法第二条を適用した。
然しながら衣料品配給規則第一条によれば、同規則第四条に所謂衣料品とは商工大臣の指定する纖維製品であつて、それは昭和二十二年九月十日商工省告示第五十八号によつて詳細明確に指定されてゐる。従つて本件取引が衣料品配給規則第五条に違反することを認定するにはその取引の客体である織物が右告示によつて指定されたもの、少なくとも本件紺織木綿が巾五吋以上であることを証拠によつて認定しなければならない。且、又、右商工省告示の適用を示さなければならない。然らば此の挙に出てなかつた原判決には理由不備の違法があり破棄を免れないのである。
第二点 原判決は事実誤認もしくは審理不尽の違法がある。
原判決はその理由に於て「被告人は……代金約二十九万二千円で買受けたものである」と認定した、成程川島ふみの販売始末書によれば、三百反二十九万二千円で販売したことになつてゐるが、他方被告人の原審公廷に於ける供述、同人の検察事務官に対する供述調書及び原判決の事実認定には採用されなかつたが、持田伝右衞門の検察事務官に対する供述調書によれば右買受価格は二十九万八千円である。かくの如く販売人と、買受人の供述が齟齬する場合は裁判所は須く、審理に際して事実を確めるべきであるのに、かゝる努力を試みた形跡がない、二十九万二千円で買受けたか或は二十九万八千円で買受けたかによつて被告人の得た利益の算定も異つて来るのであつて、被告人の利得の額は少くとも刑の量定に当つて酌量あるべき情状の重大なるものである。
原判決は事実の認定を誤つたか、もしくは審理不尽の違法あり破棄を免れないものである。
第三点 原判決は刑の量定が不当である。
原判決は被告人に罰金四万五千円を言渡した。然し被告人が買受けた織物は三百反、代金三十万円であつて呉服商としてさして莫大な取引でもなく、代金も最近の物価高よりすれば大したものではない、然も右織物の転売によつて被告人の得た利益は一万円に過ぎず決して被告人はそれによつて暴利を得る訳ではなく通常の商取引の利潤としては寧ろ少ない位である。之によつても被告人には本件犯行について、さしたる惡意がなかつたことが明かである。
以上の事実を考慮する時原判決の罰金四万五千円は苛酷に失すると思料されるのであつてかくの如くして迄惡質性のない本件犯行及び被告人を懲罰する必要は毫も有しないのである。